katabamido

割りを食む。

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彼はまだ生きている。

彼はまだ生きている。 僕は涙をこらえながらそう思った。 彼は呼吸をしていた。 それは浅く、時折止まってしまったのかと心配になるくらいの間隔が空きながら、それでも続いていた。 あばら骨の形も、頭蓋骨の形もわかるくらい、彼は痩せこけていた。 彼は煮…

【エッセイ】掛け算が苦手

横浜のみなと 私は小学二年生のころ、算数につまづいた。 掛け算ができなかったからだ。 最近その理由に気が付いたので、ここにメモしておこうと思う。 掛け算ができなかった理由は、数字を「ものを数えるための文字」として認識していたためだ。 具体的には…

【エッセイ】燃えパン

R.I.P my croissant. 朝ごはんが燃えた。 私は普段、朝食にパンとコーヒーを摂る。 最近引っ越しをした部屋には、魚焼きグリルを備えたガスコンロがついていて、よくそれでパンを温めて食べるのだが、今日は少し目を離した隙にクロワッサンに引火して、素敵…

【エッセイ】ゴキブリを食べた。

View this post on Instagram A post shared by Sakai Liunosuke (@liunosk8) 悪食の友人に誘われて、サツマゴキブリを食べた。 彼はゴキブリが嫌いだと言っていた。生理的に嫌悪感を感じるらしい。その理不尽な嫌悪感を拭うためにゴキブリを食べたいのだと…

【習作】ステラピース

ブロック敷の遊歩道を、早瀬は歩いていた。 昨晩降った雨の名残で路面は濡れていたが、あてどなく歩くスニーカーはそんなことを気にする様子もない。 地面から上がってくる水蒸気が土と草の匂いをはらんでいて、少し息苦しさを感じた。 日課というほどでもな…

水面アプリ「wasser_5(ver1.5)」

www.youtube.com Unity の練習もかねて、水面をひたすら描画するアプリケーションを作成した。 とはいえ、フリーのアセットを組み合わせただけだけれど。 手元にプロジェクタが届いたら、スクリーンセーバのように常時表示させとこうと思う。 ちなみに使用し…

【エッセイ】鬼の枷

今年度を振り返ってみて、仕事に打ち込むことが難しい一年だったなと思う。 杞憂に終わったが、転職をせざるを得ない懸念があったし、自主研究の勉強もあって、仕事とプライベートの境界が曖昧で、たまらなく疲弊していた。 いつか辞めると思いながら仕事を…

【習作】春風に乗って。

ハス@熱川バナナワニ園 まだ先に進む勇気が出なくて 「この関係に名前を付けなくていいですか。」 そうお願いしたのは僕なのに。 一人の夜に声が聴きたくなる。 そんな風に思ってしまうのが嫌だった。 そんな風に思ってしまうのが怖かった。 だから名前を付…

かわりゆく

昨年の12月に恋人だった人とお別れした。 私はその人のことが好きだった。 私は今まで、来るもの拒まずな恋愛をしてきた。 向けられた好意には、好意をもって返さなくてはいけないと思っていたから。 最初は別に好きじゃなくても、小さな好きをたくさん見つ…

【エッセイ】二流

師匠曰く。 何かを批判しているうちは二流らしい。 批判している余裕があったら、作品を作れとのこと。 伝えたいことがあって、どうしてもこっちを向いてほしいとき、はじめて作品に迫力が乗る。 特に僕の場合、文章を作品にしたいので、批判が直接的に批判…

【習作】祈りの在り方

「俺には、祈る神などいない。」 彼はつぶやくように言った。 昼休みの工事現場から吹く風は乾いていてほこりっぽかった。 単管にもたれるようにして話を聞いていた私の怪訝な顔に気が付いたのだろう。彼は続ける。 「俺が信じるのは家族と自分自身。あとは…

【習作】苔むす貴女

森のなかで。 鼻をくすぐる匂いで目が覚める。 顔をしかめるほどの臭気ではない。 小学校のバケツにかけてある雑巾のような、金魚の水槽のような、湿度をはらんだ生臭い匂いがする。 周りの地面はぬかるんでいて、周辺には腐ってしまった木々が折り重なるよ…

【習作】自我牺牲

牺牲精神 破坏对象。 自我牺牲 放纵自己。

【習作】夏の夜、一人。

自分を夜に溶かすようにして歩く。 夜の街を歩くのが好きだ。 メインストリートの居酒屋からは良く通る男性の声が聞こえて、水路からは濡れたアスファルトのような香りがする。 歩く。 歩く。 50Hzに照らされて、黒の511がコマ送りのように見える。 「実は輪…

【エッセイ】もういい、休め。

十年来の友人達と久しぶりに電話をした。 一人は寮の同室で一年間をともに過ごし、もう一人は二つ隣の部屋に暮らしていた。 学校を卒業してからもことあるごとに連絡を取りあってはつるんでいるので、話す内容もたかが知れているが、くだらない話は楽しい。 …

【エッセイ】おみくじ「第三三番 小吉」

湘南も寒くなってきたので、ダウンジャケットを出した。 外気温は3度。もうぼちぼち年の瀬である。 ふと内ポケットを探ると、今年の1月1日に富士宮浅間大社で引いた御神籤が入っていた。 小さくたたまれたそれをぱらりとめくる。 「春くれば ふりつむ雪も…

【習作】真白の雪原

白く突き刺す風が頬を穿つ。 遠くに見える星は、目の奥に響くような光を発していて、鼻の奥がつんとする。 限りなく黒に近い濃紺の空に、灰色の稜線が横たわっている。 まるで、星と僕を隔てるかのように。 朝焼けはまだ遠い。 真白の雪原を歩く。 前へ、前…

くだん(富山市新富町)

たまたま富山市で仕事があったので、15年来の友人に声をかけた。 風の便りで富山にいることは知っていたが、プライベートで富山を訪れるときはたいてい恋人を連れているのでなかなか声がかけられずにいた。 彼女が集合場所に指定した店が、新富町にある「く…

ドライバグリップ

ドライバグリップ コメリで購入したドライバのグリップを紛失したので、新規に設計しました。 製品化されている品物の設計は、まず利用者の視点から安全性や実用性、耐久性等を考慮して検討が進められます。 同時に、製作者の観点から、加工性や費用対効果な…

黒猫の三角

@西田幾多郎記念館 久しぶりに小説を読みました。 作品名は「黒猫の三角」 森博嗣先生の「Vシリーズ」一作目となる作品です。 「すべてはFになる」のS&Mシリーズとは主人公が異なりますが、それは本筋とはまた別のお話。 一年に一度、特定の時期に行われる…

搾取される思考

鈴木大拙館 ※本コンテンツには、軽微な宗教批判が含まれています。 不快に思われる方はブラウザバックを推奨します。 私は敬虔とはいいがたい仏教徒です。 私にとって仏教は「人間が社会生活を送るうえで身に着けておいたほうが得な生活習慣を取りまとめたも…

オワコンが好き(2)

figure heads ヘッダ@4Gamer.netより(https://www.4gamer.net/games/304/G030468/20180315032/) さて、先日「オワコンが好き(1)」にて、私が好きだったゲームについて記事を書かせていただきました。 さて、今日も今日とて私の好きだったゲーム作品を…

オワコンが好き(1)

オトギア壁紙(公式ツイッターより) オワコンが好き 私はオワコンのことを好きになる傾向があるようです。 インターネットの住民たる皆様には釈迦に説法かと存じますが、「終わったコンテンツ」を示すネットスラングです。 本ブログのアクセス数は週に一人…

床に寝そべってみる

近所の森の底から フローリングが好きだ。 欲を言えば、よく磨かれた板張りの床がいい。なるべくならクリアのニスやワックスが塗られていないほうが好ましい。 ワックスが塗られていると気付く程度にはべたつくので、これじゃない感がある。 はだしで毛皮に…

楽天主義の幕あけ

ヒスイカズラ@とちぎ花センター 私の人生を変えた出来事は、高校2年生の頃に車に轢かれたことだ。 2014年10月16日、その日は一足早く冬が訪れたかのように、空気がピンと張り詰めていて、遠くの磐梯山がとても鮮明に見えたことを覚えている。 事故自体は単…

一人暮らしのはじまり、書痴のおわり

有名な詩の一説(ビブリア古書堂の事件手帖だったかな) 私はかつて書痴でした。 父親も母親も読書家で、壁面本棚があるような家に暮らしていました。 小学一年生の頃に図書室で「ハリー・ポッターと賢者の石」に出会ったことをきっかけに、書痴への道を歩み…

ジムニー

脱輪した相棒@野々市(まじごめん) 2020年5月、僕の新たな相棒がやってきた。 ジムニー(JB23W)2008年式、6型で、ターボ付きのK6Aエンジンを搭載している。パートタイム4WDの5段変速で、1速の状態だとクラッチをつなぐだけで前進する頼もしい奴であ…

オーシャンズテラス柴垣

海のみえるドームテントより 怒涛の繁忙期を終えた三月三十一日のこと。 僕とジムニーはわき目もふらずに東海北陸道を北進していた。 湘南を出たのは十七時頃で、目的地は石川県の内灘にあるグランピング施設、オーシャンズテラス柴垣だ。 金沢で一泊してか…

「在宅勤務」と「すべてがFになる」

@西田幾多郎記念館 濃厚接触者になったため、在宅勤務をすることになった。 状況的には濃厚接触者だったが、無症状なうえ陰性で、自宅待機の間も元気に勤務していたので、余計な事を考える時間がたくさんあった(弊社では在宅勤務中定時退社扱いになるので…

クララとお日さま

寝床に戻る夕陽@内灘海岸 久しぶりにフィクションを読了したので、ここに記録します。 「クララとお日さま」は言わずと知れた2017年のノーベル文学賞受賞作品です。作者はカズオ・イシグロ先生というイギリス人の作家さんとのこと。 私は小さなワンルームに…