ポークソテー (富山市総曲輪:le tunnel)
朝からしとしとと降っている雨をよけるようにして、総曲輪のアーケードを歩いていると、パチンコ店から出てきたおじいさんの自転車から手袋が落ちた。
かろうじて雪は降っていないが、雨のなか素手で自転車のハンドルを握るには寒かったので、拾って手渡す。
「あったかいもん食べたいね。」
二人でそう話しながらカレー屋やハンバーガーショップを横目に地場産市場を抜けるとアーケードの裏路地に出てしまった。
仕方なく首をすぼめながら歩いていると彼女が足を止めたので、心の中で(雨のなかわざわざとまらんでもええやろ)と半ば呆れながら彼女の視線を追うと、「ランチプレート」と「ポークソテー」とだけ書かれた黒板が目に入った。
「le tunnel」とだけ書かれたガラスの扉の向こうには人二人立つのがやっとの踊り場と地下へ続く狭い階段除いていて、まるでライブハウスのようだった。 が、黒板を信じるならばレストランらしい。
「行ってみる?」
そう彼女に声をかけて、ガラスの扉を押し開けた。
「いらっしゃいませ、2名様でよろしいでしょうか。」
栗毛の店員さんの明るい出迎えに胸をなでおろしながら、ソファ席に腰掛ける。
店内は深緑の壁紙と、水色のポスター、少し暗めで暖色の照明で整えられており、天井には黒いダクトが走っている。
一応メニューを出してもらったが、デザートと食後のソフトドリンクを選んだくらいで、僕も彼女もすでにポークソテーの気分だった。
ほどなくして出てきたプレートは美しかった。
青い縁取りの入ったシンプルな白磁に、付け合わせの豆苗とメインのポークソテー。ポークソテーは特別ソースがかかっているわけではなかったが、ナイフをしっとりと受け止める肉質と、下に隠れたニンジンのムースに納得させられた。
確かにソースはいらない。
ニンジンのムースが香ばしい豚脂を受け止めていて、絡めたまま口に運ぶと思わずほほが緩むバランスだった。
プレートについてきたハード系のパンがまたおいしかった。小麦のにおいがする皮に、もっちりと水分を保った内部がプレートに残ったムースをすくい上げるのにもってこいで、プレートはたちまちまっさらになってしまった。
「いいもん食べれたね。」
そういいながら、少し温度の上がった体で狭い階段を上る。
彼女の直感に内心舌を巻きながら、どこか満たされた気持ちで小雨を歩いた。