katabamido

割りを食む。

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オーシャンズテラス柴垣

 

海のみえるドームテントより

 怒涛の繁忙期を終えた三月三十一日のこと。

 僕とジムニーはわき目もふらずに東海北陸道を北進していた。

 湘南を出たのは十七時頃で、目的地は石川県の内灘にあるグランピング施設、オーシャンズテラス柴垣だ。

 金沢で一泊してから、土曜日を内灘で過ごす予定だった。

 

 土曜日は薄曇りで、北陸の四月らしく穏やかだった。

 のと里山街道は風が強く吹いていて、会話もままならないほどだったけれど、風は暖かく湿っていて、ドライブはおおむね順調だった。

 チェックイン予定の十五時丁度についたが、僕たちのほかにも、オーナの知り合いと思しき親子連れやカップル、大学生の男の子たちでロビーはにぎわっていた。

 一通りの説明を受けた後、ドームテントに案内してもらう。

 

 アパートのような鉄扉を開けて中に入ると驚くほど静かで、僕は流体工学実験室の無響室のことを思い出した。

 一般的な建築物と異なり、部屋の内壁が布でできているうえに、テントと違って可搬性を考慮する必要がないため壁面に断熱材が入っているのだろう。

 環境音としては、耳を澄ませば子供の笑い声が聞こえてくる程度で、恋人と僕の言葉だけが数m³程度の空気を震わせて霧散していく。

 テレビもないので、海を眺めながら会話をして過ごす。

 砂浜が波に削られるようにゆっくりと、時間が言葉に溶けていく。

 

 凪のような時間に感動する反面、どこかでサナトリウムを連想してしまう自分に嫌気が差した。

 「なんだか、治療しに来たみたい。」

 僕の自嘲気味な一言を聞いて、恋人は頷いてこう言った。

 「頑張っていたもんね。」

 きっと真意を汲んでくれたのだろう。飾り気のない一言だったけど、そんな素直な言葉に安心感を覚えた。

 夕食を済ませた後、交互にシャワーを浴びに行った。四月といえどまだ桜前線が訪れる前のこと。屋外で過ごすには少し肌寒かったことが記憶に残っている。

 恋人を待っている間、僕はホットカーペットに身を横たえて、ビニル製の窓越しに星空を眺めながら、いつの間にか眠りに落ちていた。

 今までの人生で、星空を眺めながら眠りにつくことがどれほどあっただろうか。

 静寂は人を孤独にしたり、息苦しさを感じさせたりする半面、そばにいてくれる人の体温や言葉を最も減衰が少ない状態で伝えてくれる媒体となりえることを学ぶことができた夜だった。

 

 

今週のお題「何して遊んだ?」