katabamido

割りを食む。

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【習作】祈りの在り方

 「俺には、祈る神などいない。」

 彼はつぶやくように言った。

 昼休みの工事現場から吹く風は乾いていてほこりっぽかった。

 単管にもたれるようにして話を聞いていた私の怪訝な顔に気が付いたのだろう。彼は続ける。

 「俺が信じるのは家族と自分自身。あとは自分がやってきたことと、これからやっていくことだけだ。」

 擦り切れたツナギ越しに単管に触れているところが少しだけ冷たくなって、午前の仕事を終えた体には心地よい。

 ぼちぼち買い替えどきだな。

 そんな風に思いながら、私は彼の発言の意図をくみ取りかねていた。

 何か決意をしたのか。

 何かを後悔しているのか。

 足がかりを見つけようと彼のほうへ目をやるが、視線はぶつからなかった。

 仕方なく思料を続ける。

 共感してほしいのだろうか。

 「意図を汲み取りかねているのですが、それは共感を求めているのですか?」

 尋ねてみる。

 「いや別に」

 彼は右手を開いて振るような仕草をしながら続けた。

 「単純にそういう習慣が無いなと思っただけだよ」

 ふっと寂しそうに笑う。

 彼の娘は、このあたりでは名の知れた学校に行ったのだったか。

 もしかしたら説教でもされたのかもしれない。

 私は祈りを、神にも儀式にもよらないものだと思っている。

 どのような形であれ、自らの歩んできた道と行く末を見つめる習慣のことを祈りと呼ぶのだろう。

 手紙を書くことも、家族に食事を作ることも。

 家族のより良い明日を思いながら働く彼もまた、祈る人なのだと思う。

 午後の予鈴が鳴った。