【習作】夏の夜、一人。
自分を夜に溶かすようにして歩く。
夜の街を歩くのが好きだ。
メインストリートの居酒屋からは良く通る男性の声が聞こえて、水路からは濡れたアスファルトのような香りがする。
歩く。
歩く。
50Hzに照らされて、黒の511がコマ送りのように見える。
「実は輪郭線は存在しない。」
中学校の美術の先生が言っていた言葉を思いだす。
私たちが輪郭として認識しているのは地続きになった「それ」と「それ以外」の境界のことで、実際に線があるわけではないらしい。
点描の授業の時に言われたのだったか。
細胞や原子のように、自分を構成する小さな粒が空気と溶け合う。
自分がいないかのような、「もの」ではなく「こと」になってしまったかのような感覚。
気温と体温が平衡していて、たばこの煙が大気に溶けていくような「拡散」に近い。
進むたび、水蒸気をはらんだ空気が僕の後ろで渦を巻いて、空気と触れた部分が少しずつ削れていく気がする。
削れて拡散していった私には何が残るのだろうか。