katabamido

割りを食む。

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フィクション

【習作】ステラピース

ブロック敷の遊歩道を、早瀬は歩いていた。 昨晩降った雨の名残で路面は濡れていたが、あてどなく歩くスニーカーはそんなことを気にする様子もない。 地面から上がってくる水蒸気が土と草の匂いをはらんでいて、少し息苦しさを感じた。 日課というほどでもな…

【習作】春風に乗って。

ハス@熱川バナナワニ園 まだ先に進む勇気が出なくて 「この関係に名前を付けなくていいですか。」 そうお願いしたのは僕なのに。 一人の夜に声が聴きたくなる。 そんな風に思ってしまうのが嫌だった。 そんな風に思ってしまうのが怖かった。 だから名前を付…

【習作】苔むす貴女

森のなかで。 鼻をくすぐる匂いで目が覚める。 顔をしかめるほどの臭気ではない。 小学校のバケツにかけてある雑巾のような、金魚の水槽のような、湿度をはらんだ生臭い匂いがする。 周りの地面はぬかるんでいて、周辺には腐ってしまった木々が折り重なるよ…

【習作】夏の夜、一人。

自分を夜に溶かすようにして歩く。 夜の街を歩くのが好きだ。 メインストリートの居酒屋からは良く通る男性の声が聞こえて、水路からは濡れたアスファルトのような香りがする。 歩く。 歩く。 50Hzに照らされて、黒の511がコマ送りのように見える。 「実は輪…

【習作】真白の雪原

白く突き刺す風が頬を穿つ。 遠くに見える星は、目の奥に響くような光を発していて、鼻の奥がつんとする。 限りなく黒に近い濃紺の空に、灰色の稜線が横たわっている。 まるで、星と僕を隔てるかのように。 朝焼けはまだ遠い。 真白の雪原を歩く。 前へ、前…

【習作】同じ穴の狢

「だって、るいさんと私、同じ穴の狢じゃありませんか。」 まただ。と、るいは思う。 なんの話の流れでこうなったのか、内心で頭を抱える。 飲んでいる国稀が効いているのだろう、会話の足取りを振り返るには手遅れだった。 夏樹は二つ下の後輩で、おととし…