拾得物の記録(乞食 Ⅰ)
今日は自称乞食のおじさんを拾った。
恋人に会いにいく時,僕は何かと「拾いもの」をする。
「拾いもの」と書いたのには理由があって,「拾いもの」は単純な物体とは限らないからだ。
帰り道のこと、岡崎SAで休憩を終えて車に戻ろうとすると、見知らぬおじいさんに声をかけられた。
「すみません。少しお尋ねしたいのですが。」
歳の頃は60代後半だろうか。最近のおじいさんは若いので、実際にはもう少し歳をとっているかもしれない。
夕方で少し肌寒かったし、長めの休憩をとった後だったので、僕はすぐに走ろうと思っていたのだが、道を尋ねる程度だろうと思い直して、話を聞くことにした。
「おたく、ナンバプレートに湘南と書いてあるけれど、今からお帰りでなのではありませんか。」
僕のジムニーを指差しながらおじいさんは言う。
「ええ、そうです。」
「驚かれるとは思いますが、浜松まで乗せて行ってはくれませんか。ここまでヒッチハイクで来たんです。」
ヒッチハイクなんて言葉がおじいさんの口から出てきたことや自分がヒッチハイクを若者の特権だと思っていたこと。こんな若造を頼ろうとするおじいさんが居ることに驚いて内心苦笑した。
だいいち、COVID-19が流行している2021年、ヒッチハイクで旅をしようとする人間がいること自体に驚愕した。
平時であれば幾人かは見つかるだろうが、流行り病が怖くてろくに県を跨いだ移動もできない有様なのだ。
知らない人間を狭い車両に乗せて移動などできるわけもない。
その一方で、恋人だったらこの状況にどう対処するだろうかと考えた。
僕が車に乗せなければ、この人は夜をここで明かすのだろうか。
誰も助けないこの人を助ければ、何か大きな見返りがあるのではないか。
不要なことをして、もし病気になったら会社にどう言い訳しようとか。
そんなことを考えながら、僕は言った。
「お困りでしょうから、どうぞ乗ってください。」
運転席のドアを開けて、リュックに財布をしまいながら続ける。
「困ったときはお互い様ですし、旅は道連れといいますしね。」
おじいさんは、驚きと安堵を顔を浮かべながら、助手席に乗り込んだ。