【習作】同じ穴の狢
「だって、るいさんと私、同じ穴の狢じゃありませんか。」
まただ。と、るいは思う。
なんの話の流れでこうなったのか、内心で頭を抱える。
飲んでいる国稀が効いているのだろう、会話の足取りを振り返るには手遅れだった。
夏樹は二つ下の後輩で、おととしくらいからの付き合い。
彼女に初めて会ったのは、彼女が十八、るいが二十一の冬だったと思う。
札幌市営地下鉄の大通り駅近くのミスタードーナツの前で所在無さげに立っている彼女は、その場所に不釣り合いな存在に見えた。
るいはそんな彼女の姿をどこのコミュニティに居ても疎外感を感じる自分自身とを重ねてしまっている。
夏樹の言葉が示す意味は痛いほどよくわかっていた。
「同じ穴の狢ね。」
るいは繰り返す。
私たちは魂の形が似ている。
魂の形が似ているからこそ、この子とはこれ以上親密にならないほうがいいだろうとるいは思っていた。
似ているから、異なる部分が大きな障壁となってきっと私たちを苦しめる。そんな思いがるいを踏みとどまらせていた。
それでも夏樹を誘い続けているのは、るいが夏樹の好意に気付いていて、それに甘えているからだ。
彼女の期待に応えられないことはわかっているのに、こうやってずるずると関係を続けている自分の汚さに嫌気がさす。
まっすぐな好意が痛くて、目をそらしながら言う。
「そうだね。私たちはドッペルゲンガーくらいよく似てる。」
正直な話、私は彼女のことが好きだ。
でも彼女は同性で、私はヘテロセクシュアルとして育てられた。付き合って4年目になる恋人もいる。
もちろんその恋人のことは好きだし、一緒にいてほっとするから、結婚を考えるならその人だと思っている。
彼は根本的に私と違ってまっすぐで、私が大切にしたいものと彼が大切にしたいものが違って、たまらなく苦しくなる。
夏樹ならわかってくれるのに。
そう思わないでいられたら、どれだけ幸せだっただろう。
自分に言い聞かせるように重ねた「愛してる」はどこかうつろな音がして、嬉しそうに微笑んでくれる彼の表情を見ながら心が痛んだ。
ねぇ夏樹、愛してるよ。
中学生の頃の「好き」くらい、ダサくてみっともない好意だけど、あなたは気付いてくれているよね。同じ穴の狢だもの。
あなたの代わりがいないことくらい、とっくに気付いてる。
いつか傍にいることが許されるときが来るのかな。
そう思いながら、るいはグラスに口をつけた。
特別お題「今だから話せること」